S)ドゥマゲテに住んでたときはあちらこちらからニワトリの「コケコッコー」って鳴き声が聞こえてたやろ。
J)そうだったわね。
S)バレンシアのこのアパートでも初めのうちはそうやったけど、あれはここの住民の一家族が闘鶏に使う雄鶏をたくさん飼ってはって、ここに置いてたからやってん。でも、その人たちが引っ越してしもてからすっかりニワトリの鳴き声から遠ざかってしもたなあ。
J)うん。でも、この前、お隣さんからニワトリの「コッコッコッ」っていう鳴き声が聞こえて、「あ、懐かしい!」って思ったの。
S)あー、その話な!
J)何かな?って思って、私、お隣の台所を覗いてみたの。
S)ここの台所は外にあるダーティーキッチンやし、ユニット同士の仕切りが小さいからちょっと首伸ばしたら丸見えやしな。
J)お隣さんは電気洗濯機を使ってないから洗濯はプラスチックの「たらい」を使ってるのよね。その「たらい」の上にもう一つ「たらい」が斜めに蓋のようにかぶせてあって、声はそこから聞こえるのよ。そして、その蓋になってる「たらい」が微妙に動いてるの。そこにニワトリがいたのよ。
S)そうやったな。あんたに言われて見に行ったけど、確かに白いニワトリがおったで。
そやけど、そんな飼い方すんのかいなって思ったで。
J)うん。あーお隣さんもニワトリ飼うのねって思ったのよね。でも、そのニワトリ、すぐいなくなっちゃったよね。
S)ああ、残念やったな。やっぱりニワトリの声が聞こえへんと落ち着かへんもんなあ~。
J)ドゥマゲテに住み始めた頃は、夜中から大声で「コケコッコー」が連発されるのを聞いて、うるさいって思ったけど、今は私も逆に「あーここはフィリピンね」って、落ち着く気もするのよね。
S)オレもや。あ、なんか話逸れてへんか?なんでおらへんようになったか言わへんとあかんで。
J)あ、そうそう。そのニワトリはそのあと私たちが買い物から帰って来たら、いなくなっていて代わりにお隣のお手伝いさんが羽毛がほとんどないニワトリを触っていたのよ。
S)しかも、それ首あらへんかったやんか。
J)そうなの!
S)つまり、あのニワトリの成れの果てってことや。殺ってしもて、羽をほぼ取り終わったときにウチらが帰って来たんや。雇われ料理人の兄ちゃんに「殺ったん?」て聞いたら、「うん」言ってはったわ。
J)あ~なんてこと!究極的に新鮮なのはいいけど、なんか複雑な気持ち!
S)フィリピンでは生きているニワトリを買って来て、自分の家でしめるってことは結構日常茶飯事みたいやな。
J)そう言えば、私たちの家の建設現場に差し入れ持って行ったらニワトリが繋がれていたことがあったよね。
S)そうや、あれも聞いたら後で食べるため、言うてはったわ。
J)残酷な感じもするけど、考えてみたら現場には冷蔵庫もないし、それが一番衛生的なのかもしれないわね。
S)冷蔵庫要らず!すごいことや。そやけど、ニワトリしめるのはオレちょっと勘弁や。できる自信ないわ。オレ、血に弱いねん。
J)大丈夫よ。生きたのは買ってこないつもりだから。
S)そうしてや。頼むで。
J)でも、しめたのをすぐに食べるのは冷蔵庫がいらないだけじゃなくて、やわらかくて美味しいみたいなのよね。
S)そうそう。フィリピン料理を教えてくれた料理人が言ってはったやんか。肉は朝早くチャンギー(マーケット)に行って、吊るされている肉の塊でまだ体温が残ってるのを買うんやって。
J)それを聞いてから私たちも豚肉はバレンシアのチャンギーに早朝に行って買うようにしてるよね。
S)まあ、どこかで屠殺してから運んで来てあそこで解体してるからさすがにひんやりしてはいるけどな。
J)でもそれで肉厚のとんかつをよく作るけど、おいしいよね。ぶ厚くてもやわらかさが違うのよね。
S)ビーガンが聞いたら怒るかも知れへんけど、あの味を覚えたら肉食はやめられへんなあ。
J)チャンギーのお肉屋さんはもうすっかり顔なじみで、いつもおまけもしてくれるしね(^ ^)。
S)そういや、しばらく前にウサギがこのアパートの敷地内を犬や猫と同じように走っていたやん。あれはペットやろか?それとも食用やったんやろか?
J)ひたすらその辺の雑草食べていたから、ひょっとして前にいたヤギの代わりなの?雑草刈り要員かしら?って思って見てたんだけど、2日間位したら見なくなったよね。
S)食べてしもたんちゃうか?このまえ、近くのリゾートにパーティーの予約取りに行った時に、Rabbitって書いたあったから聞いたら、肉も売ってるけど、生きてるのも売ってるって言ってはったからな。

J)日本ではウサギは「1羽2羽」ってニワトリみたいに数えるけど、こっちでも同じ感覚なのかしら。
S)味はどないなんやろ。試してみたい気もするで。
J)じゃあ、今度あのリゾートで買ってくる?生きてるのを。
S)あ~やめてんか。それやったらケージも買ってきて「バニーちゃん❤️」とか名前つけて飼うしかないわ~。